
インターネットが普及していないころ。中学生だった私は背の低さに悩んでいました。私が読んでいたコミック雑誌には、気になって仕方がない広告が掲載されていました。
「あっという間に背がぐんぐん伸びる!」
「30年の実績!」
「異性にもてる!」
こんなキャッチコピーでした。背を伸ばしてくれる商品です。最後のコピーが心に響きます。
「異性にもてる!」
つまり背が低い私は
「異性にもてない!」
と言われているのです。もてたいです。
中学生にはやや高い、でも手が届かないほどではない価格でした。貯めていたおこづかいを現金書留の封筒に入れて、注文をしました。なんとなく、人に話すには気恥ずかしい、秘密の品物を注文した感じがしました。
トレーニング器具か、電気がびりびりする機械か、怪しい薬か。それは目の覚めるような画期的な代物。なにしろぐんぐん伸びるのです。中学生をタケノコ化してくれるのです。
数日経ってついに届いたのは、ヨガの教本でした。なぜにヨガ。
説明によれば、ヨガで関節に刺激を与えると背が伸びるのでした。載っている写真が中学生にもわかるほどおそろしく古臭い。さすが30年の実績です。
せっかく買ったものです。背中を丸めたり、ブリッジしたり。体が硬くても、ポーズを作ってがんばりました。1週間後に腰痛が限界を超え、やめました。
家中を探しても見当たりません。恥ずかしさに当時の私が隠したのかもしれません。
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